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最高裁判所第三小法廷 昭和48年(行ツ)27号 判決 1975年1月31日

東京都新宿区戸塚町二丁目二〇四

カースルいずみ

上告人

多田弘男

東京都中野区中野四丁目九番一五号

被上告人

中野税務署長田中猶一

右指定代理人

二木良夫

右当事者間の東京高等裁判所昭和四五年(行コ)第七〇号課税処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四七年一〇月二五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点ないし第五点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであって、採用することができない。

同第六点について

本件記録に徴しても、上告人が調書の記載につき異議を述べた形跡は認められず、他に調書の記載の誤りをうかがわせる資料もないから、所論のような尋問及び証言がされたと認めることはできない。所論のような尋問及び証言がされたことを前提とする違憲の主張は、失当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 天野武一 裁判官 関根小郷 裁判官 坂本吉勝 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己)

(昭和四八年(行ツ)第二七号 上告人 多田弘男)

上告人の上告理由

当事者間の課税処分取消請求事件に関する昭和四五年(行コ)第七〇号(原審東京地方裁判所昭和四四年(行ウ)第一六七号)東京高等裁判所第七民事部昭和四七年一〇月二五日付判決は左記の通り、民事訴訟法第三九四条並第三九五条第六号に該当するを以て民事訴訟規則第四七条により左の通り理由を開陳します。

第一点 金三〇〇万円の小切手の取扱に関する判断について(判決理由書9枚三行以下)

昭和四〇年三月二五日宅地売買代金分として、金二五七万二、四〇〇円を買主丸市から売主被控訴人の株式会社大和銀行豊中支店に於ける普通預金口座に送金したこと、従って其金額は三月二六日被控訴人の預金に加えられたこと、同年四月八日土地買主たる丸市が株式会社荘内銀行浜町支店長の振出しにかゝる金三〇〇万円の小切手一通を被控訴人に直接交付したこと、そして其小切手は被控訴人が新に設けたる株式会社大和銀行我孫子支店の普通預金口座に預金したことについては双方争いはない。従って一件書類を不完全ながら一応審査したであろう控訴審裁判官も知っている筈である。

従って此時点における被控訴人の預金口座は二口になったわけで、丸市が銀行送金して来た金二五七万余円は被控訴人の住所に近い株式会社大和銀行豊中支店に、又一時的に借金して、釣銭を払って受取った金三〇〇万円の小切手は取引場所に近く、しかし被控訴人の住所とは約二〇キロ余を距て、二回の電車乗換を要する株式会社大和銀行我遜子支店に預金した。其結果被控訴人の預金高は、それ迄に豊中支店にあった預金残若干を加えて、合計金五五七万八、七三〇円となったのである。

之を以て四月八日丸市に対する釣銭として調達した金二五〇余万円の支払をすれば、あとは完全な被控訴人の預金となるわけである。釣銭の大部分を立替えてくれた濃沼タケとの約束は、昭和四七年五月一九日控訴審法廷における証人三宅実蔵述述の通り、事業資金を一時立替えるのであるから、必要な場合は其全部又は一部を立替人の請求により直ちに返還することを条件とし、(それが可能なことは、事情を聴いた立替人はよく了承している)たのであるから、被控訴人は濃沼タケの請求に従って四月一〇日から一五日までの間に其都度前記豊中支店の貯金口座(口座番号三二七〇)貯金中から数回に亘り引出し、完全に支払を完了したのである。此事実は控訴人が金三〇〇万円の小切手の取扱について株式会社大和銀行豊中支店に於て調査した際、共に第一回丸市送金分に就ても調査を行っているが、公正課税を目的とするならば、本件に関する代金授受関係は精密調査するのが当然であり、国家公務員としての義務でもある、(此調査に立会った銀行員は支店長代理東島勝美氏である)従って控訴人は口座番号三二七〇号の内容は和悉している筈である。それにも拘らず控訴人は控訴理由中に此明確な事実を秘匿し、後の金三〇〇万円の小切手に関してのみ記載している。即ち準備書面3枚目裏二行目以下で、

『もし、二、五〇〇、〇〇〇円の金員を丸市幸雄に対し、つり銭として支払った旨の被控訴人の主張が真実であり、また其金策のためにとびまわって資金を調達した旨の三宅実蔵の証言が正しいとするならば、そのつり銭相当額は直ちに引出されて、その返済にあてられている筈である。しかるに、すでに述べたところから明らかなとおり、被控訴人が受領した三、〇〇〇、〇〇〇円についてはそのような事実はなんら認められない。

したがって被控訴人の主張はなんら根拠のないものである。』

と記載されている。『小切手三〇〇万円を受取るために借金して釣銭を払ったというならば、其小切手を換金して其金で其借金を払うべきで、之が行はれていないから、被控訴人の主張は根拠がない。』というのである。このような滑稽な論理がまさか控訴審で取上げられるものとは思はなかったが、控訴審は勇敢に之を取上げた。本項最初に記載した如く、丸市から被控訴人に送った小切手は只金三〇〇万円だけでなく、其前に金二五七万二、四〇〇円もあることは控訴審は判決理由中でも之を認めている。それにも拘らず、本件に関しては最も重要な問題である金銭授受関係の審理に只金三〇〇万円の小切手だけを取上げた浅墓な控訴人のトリックのみを真実なりとした判決理由には、二回の送金のあったことを確認した控訴審としては重大な齟齬がある。依って民事訴訟法第三九五条第六号に該当する。

第二点 土地売買周旋手数料に関する事項を故意か怠慢か判決理由に加えていない。

本件土地売買周旋手数料の支払は双方共争いのない土地売買契約書(甲第一号証)の条件に基き、買主たる丸市が全額支払ったもので(第一審丸市幸雄が証人として供述している)そして其金額が金二八万円であることも明らかである(控訴人提出の準備書面中にも明記している)が、其金二八万円は金三〇〇万円の取引に対する大阪府所定の料金であって、若し取引額が金五四〇万円であるならば、手数料は金四六四、〇〇〇円でなくてはならない。之は大阪府所定のもので府下の取引業者は例外なく之を履行しているのであるから此点に関しては全然論議の余地はない。従って手数料二八万円を支払っている本件取引額は金三〇〇万円であることは一点疑問の余地のないことであるが、控訴審判決理由中には全然之を無視している。売買価格の判定上最も重要なポイントとなる此点を無視した控訴審判決には重大な欠陥の生ずることは当然である。

控訴人は此明確なる事実がごまかす余地のないことを知るや此事件とは直接関係のない過去の事実に付、被控訴人が谷田憲一に対し支払った金四四万円中から一部を取上げて本件手数料であると事実を捏造し、昭和四六年三月一二日付準備書面二において、周旋手数料として売主、買主双方から金二八万円宛を受取っていると主張しているが、土地売買契約書の成立に異議のない控訴人が斯る主張をするのは脱線も甚しい。契約の内容によって周旋手数料の支払義務のある買主丸市が金二八万円支払っていることは控訴人が厳重調査した筈のまるいち商店の帳簿によっても、又法廷における証人丸市幸雄の証言によっても明かである。

被控訴人が谷田憲一に対し、金四四万円支払った理由は控訴審における被控訴人提出の準備書面にも記述した通り、丸市との間に土地売買問題の発生していない数年以前から、被控訴人は本件土地の売却を企画したが、其地上には数十年以前から住宅があり、それを他人に賃貸しているので、其立退きを求めて、更地とするのでなくては甚しい不利であるので、谷田憲一に依頼して立退交渉、立退きに必要な立退先敷地の購入、住宅の建設、その他一切の処理に当ってもらったので、旅費、滞在費、此種交渉に必要な立退料以外の機密費、労力に対する報酬等を種々の名目の下に交付したのであって、丸市との関係が生じたのは立退完了後のことである。従って金四四万円は(交付理由の生じたのは数年に亘っている。)土地売却準備のための経費ではあるが本件取引については全然無関係である。本件土地売買取引が更地として行はれたことは訴訟継続中の売却当事者双方の供述により極めて明らかである。

第三点 念書(判決理由書6枚裏一行目以下)について。

丸市が売買契約書と共に被控訴人に強要されて書いて渡したと自称する陰匿価格に対する課税を保証する念書なるものは全然事実無根のことであるが、控訴審では其事実の存在を簡単に措信している。何を根拠に措信したか。只買主の丸市がそう言ったということ以外にそれを裏ける何等の根拠もなく却って其反証が数多く存在することは、本事件の経過を冷静に検討すれば其供述が事実無根であることは一点疑う余地のないにも拘らず、控訴審では簡単に之を措信し、根本的に誤った判断を理由として判決している。判決理由に齟齬ありとする理由は次の通り。

(一) 仮りに此様な売買価格変更の事実があったとして、此念書なるものが法的に効力を生ずるものでないことは明らかで、其空文に均しい念書を要求する筈がない。

(二) 仮りに念書を渡したことが事実であるとするならば之を強要したという被控訴人も、之を渡さなければ売買契約をしてくれないからという買主丸市も其有効性を確信したからである筈である。然らば昭和四三年に至って現に其予期した事実が起ったのであるから、被控訴人は何よりも先ず丸市に対して念書記載の内容の履行を求める筈である。其為めに備えた念書である筈であるから、当然其事ある筈である。

然るに此事件が起ってから今日に至るまで一度もそのようなことはなかったのである。それは念書を取られたと主張する丸市自身が、証人として幾度か証言していることでも明らかである。

被控訴人は強要して丸市から取付けたという念書を必要とする事態が現実の問題となったのであるから、丸市に対し其履行を求めないということはあり得べからざることであるとの常識以前の疑問が控訴審裁判官には浮び得なかったのである。

被控訴人は課税の更正決定通知に接するや、直ちに所轄税務署に異議を申立てている。所轄税務署から釣銭の領収書を示せと迫られ、領収書は取っていないが、買主の証明なら取れる筈だから、直ちに丸市に照会(甲第二号証)を発した。(勿論其際にも念書のことには触れていない。それは念書言々は事実無根のことであるから、被控訴人は何等知ることがなかったからであって、若し、此場合、そんな事実があったのであれば、其結果はどうであろうとも当然其履行を迫る筈であるし、税務署に対し其以上に配慮することは避ける筈である。然るに被控訴人は税務当局に対し、あらゆる方法によって異議を申立て、容れらざるや民事訴訟を提起している。然るに控訴審では念書を強要したものの行動として少しの疑問も持っていない。)

丸市からは釣銭領収の事実を認めた返事(甲第三号証)が来た。之は税務署の要求する領収書に匹敵するものであるから、被控訴人は直ちに之を税務署に提出したが、採用しない。国税局内の救済機関に右甲第三号証を添えて救済を求めたが「返金の事実を裏付ける新しき物的証拠の提出もない」等、全く何等の調査も行はずして、言語同断の理由を以て被控訴人の請求を斥けた。被控訴人は税務当局内に設置した救済機関は全く国民を欺くゼスチャーに過ぎないことに失望して、公平な判定を得るべく民事訴訟を提起したのである。此経過を通観することによって念書を書かされたという丸市の供述が全く事実無根であることは簡単に知ることができる。丸市が何が故に斯る虚構の事実を供述したか。被控訴人には勿論定かではないが、土地取引に関する丸市商店帳簿の記載事項、土地売買当時に於ける常規を逸したる土地代金の支払方法等、一連の計画的行為であることは想像するに難くない。控訴審判決は単に丸市が供述したということの外之を裏付ける何物もなく、却って其虚偽であることを判断するに足る事実が横濫しているに拘らず簡単に之を措し、誤った判断を下したものであるから、判決の理由に重大なる齟齬あることは、当然である。依って民事訴訟法第三九五条第六号に該当する。

第四点 土地売買契約書(甲第一号証)に関する判決理由(理由書6枚四行目以下)

契約の成立、即ち契約書の作成(甲第一号証)が契約書記載の通り昭和四〇年三月二一日であることに争いはなかったし、又買主たる丸市が昭和四四年一〇月一日大蔵事務官倉持秀雄外一名の尋問に対しても又第一審における証言(昭和四三年三月一二日証人調書四八-四九)でも之を確認しておったのであるが、此の事件が民事訴訟に進み、第一審に於て敗訴するや控訴人は丸市幸雄をして、契約書の作成は同年四月八日であったと供述せしめ、日付の変更を企てたのであるが、控訴審では日付に関しては控訴人の主張を斥けている。それは事実と一致することであるから正しい認定であるが、其正しい認定に基く判決としては判決理由に重大なる齟齬を生じている。

即ち、土地売買契約書(甲第一号証)第二号同第三号には売買代金を手取金三〇〇万円とすること、売主が右代金を入手すると同時に本土地の所有権は完全に買主に移転するものとし売主は所有権移転登記を行うに必要なる権利書及委任状竝印鑑証明書を交付又は郵送すること言々と規定してあり、最も厳しい内容のものである。而も此契約当日は買主が手付金を持っていなかったがために、手付金の授受は全然行っていない。此の点についても双方争いはない。若し控訴審判決の如く、実際の売買価格が金五四〇万円であるとするならば、此段階、此状態において売主が欺る厳しい内容の契約書を交付するであらうか。若し買主が契約書記載の義務を行い、権利を求めた場合、売主は何によって差額金二四〇万円の回収が行えるであろうか。此金二四〇万円に対する課税がされた場合には買主において支払う旨の念書を強要したという(之は事実無根のことであることは原審控訴審を通じて被控訴人が理由を示して屡々主張している。それは別項に於て証明する)被控訴人が買主の意思如何によっては金二四〇万円をフイにされるかも知れぬような契約書を作ったとは普通の常識では考え得られないことである。而し控訴審では契約の時が昭和四〇年三月二一日であることを認めながら、何等の裏付けも証拠もない買主丸市のあり得べからざる供述を軽々しく措信した控訴審判決理由には重大なる齟齬がある。

依って民事訴訟法第三九五条第六号に該当する。

第五点 甲第三号証に関する判決理由について(理由書第7枚第三行目以下)

控訴審は「甲第三号証は丸市が被控訴人のため有利に取計らおうとの意図の下に、被控訴人のいうまゝに、真実に反する回答をした書面であること」と認定し、之を判断の基礎としている。

其の上に、

(一) 土地売買価格は金五四〇万円であるのを金三〇〇万円に偽装したこと。

(二) 其偽装部分が発覚し、課税された場合には土地買主たる丸市か其税金を支払うとの念書を被控訴人から強要されて作成交付したこと。

(三) 土地買受代金が金五四〇万円であることを帳簿の調査によって税務署に発覚したので、昭和四二年三月中に丸市は被控訴人に対し其ことを自ら伝え、正しい申告をするよう勧告したこと。

等、丸市の供述を全面的に措信し、之を基礎として控訴審は判決しているのであるが、此控訴審の判断を基礎として甲第三号証の内容の真否を判断するなれば、控訴審の判決理由には左の如き多くの齟齬矛盾があることがわかる。従って甲第三号証に関する控訴審は根本的な誤りを犯している。

(イ) 被控訴人は自分の欲する回答を得られることの絶対に有り得ない筈の照会(甲第二号証)を何故出したか。普通の常識では出す筈がないと考えられることである。

(ロ) 此照会を受けた丸市が此段階において回答し得べきことは左の通り幾種類もあって受取りもしない金を受取ったといはなばならぬ理由も、又そうすることが被控訴人のために有利に取計うことになるという理由も全然存在しない。

1 釣銭を受取った覚えはない。――之が真実であるというのか控訴審の判断であるか、其真実を丸市は何故秘めねばならなかったか。殊に一年半も以前に帳簿記載事項によって税務署に発覚したから正しい申告をするように被控訴人に自ら電話で通告したという丸市が其真実(控訴審判断)を回答できぬ理由はないに拘らず、受取っていないと自称する釣銭を確かに受取ったという正反対の回答をせねばならぬ理由は何か。

2 念書によって、こんな場合のことを私の方で保証してあるんだから、税金は私の方で処理し、迷惑はかけない。

3 此問題は当時、あなたの方え私が直接電話通知した通り一昨年私の方の帳簿で税務署に発覚したのだから、其結果としてあなたの方の課税を更正したものと思うから、其つもりで処理して下さい。

等々真実に立脚した回答は幾通りもある。此段階に於て真実の回答を憚る理由は全然存在しない。

それにも拘らず、丸市は何が故に自らいう虚偽の回答をせざるを得なかったか。之を追求することが事件の核心を突くことである。事件は完全に税務署に発覚している厳然たる事実(丸市の帳簿記載内容が真実でなく、何等かの事情によって作為した内容が発覚したというのであれば話は別である)の前に立って、被控訴人を有利にするために虚偽の回答を出したという滑稽なる丸市の供述を鵜呑みに措信した控訴審の判決は前記(一)、(二)、(三)を措信した裁判所としては根本的に齟齬がある。

況してや金二五〇余万円を受取ったか否かということは、それは税金関係において、やがては、自分の方にはね返って来ることであることは営利会社の重役として判らぬ筈はないし、甲第三号証の内容は言はば金二五〇万円の領収書同様のものであるから、其事実がないのに軽々しく回答できる筈のものでない。

又買主丸市は此点に関する大蔵事務官倉持秀雄外一名の尋問に対して「其ような事実はありませんが、紛争になるのを避けるため多田氏の要望どおり返事をしました(乙第四号証五枚のうち五枚二行目以下)」と答えている。裁判所が措信した事実を前提として考えた場合、何が紛争の原因となるものがあるか。それを肯定した裁判所の判断は齟齬している。

依って民事訴訟法第三九五条第六号に該当する。

第六点 証人調書の誤謬(真実に反する証人調書を判断の材料にしている。)

昭和四七年五月一九日三宅実蔵の証人調書中左の如く脱落若しくは誤記がある。

(1) 二六八枚目「三〇〇万円の小切手を受取った領収書を出しましたか」との裁判長の尋問に対する証人の答弁中第一行目――それは私の記憶では被控訴人から――の次に、

「丸市から土地代金領収書に小切手番号等を記入して代金は此小切手で受取った旨書いてくれと希望があるが」との証人の供述が脱落している。

(2) 控訴人指定代理人(森脇)尋問中二七四、二七五枚目、証人が

「私は本日は証人として出頭しているので、尋問せられる事項は限度があります。余計な質問はやめてもらいたい」

旨供述し、控訴人指定代理人が

「関連事項です。」

と答えたことが全部脱落している。

(3) 裁判長尋問中二六七枚目初頭、

「あなたの奥さんは岡山に住んでいられるそうじゃないですか」

と質問し、証人が

「事情あって数十年前から別居して生活しています」

と答えた事項が全部脱落している。

(4) 裁判長尋問の第二七六枚目「誰れから聞いたのですか」との尋問に対する証人の答弁「被控訴人から聞きました」の次に「家内からも聞きました」と述べたのが脱落している。

(5) 二七六枚目裁判長尋問「二四〇万円の金をどういう風にして返したか聞いておりますか」に対し、「それは聞いておりませんが返したということは聞いております」の次に

「四、五日前に丸市が送金した金二五〇万円余がありますから」

と答えた点が脱落している。(此答弁の内容は当事者間に争いはなく裁判所もよく知っており、判決理由書にも明記されている。)

以上の事実は当日在廷した傍聴人から証言を取付けることができる。

斯くの如く不完全不備なる証人調書(裁判長捺印)を判断の基礎とした判決は正当性を欠く。殊に(3)に至っては事件と何等関係なき個人のプライバシーに関することを傍聴人在廷の法廷に於て問答するが如きは証人の人権を蹂躙するもので、明らかに憲法に違反するものである依って民事訴訟法第三九四条に該当する。

此の裁判長の不謹慎なる言動は、証人又は被控訴人に対し何等かの感情を抱いている証左である。

事実証人の妻は証人と合意の上、昭和一四年以来、本籍地たる岡山県玉野市に別居し、証人の負担に於て平和な生活を営んでいる。裁判所が本件審理の上に何の必要あって斯る調査を行ったか。恐らくは控訴人に於て調査を行い、之を裁判所に通じたものと思はれる。果して然りとすれば裁判所と控訴人は本事件に関し法廷以外に於て綿密なる連絡を保っているということであって、公平なる審理不可能の状態の下に行はれた判決であることは明らかである。

以上の如く控訴審判決は根本的に事実誤認の上に立脚し、公正なる原審判決を覆すに足る特段の具体的合理的な理由も示すことなく、裁判の心証主義を悪用して、審査の粗漏、判断の齟齬、矛盾のまゝ、判決を行う如きは甚しく正義に反すると思いますので、完全且つ公正なる審査を得て、不当なる控訴審判決の破棄と善良なる法治国々民の保護を求めるため上告した次第であります。

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